東京地方裁判所 昭和43年(行ウ)260号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
〔判決理由〕原告は、本件抗告訴訟をもつて、右告示の取消を求めているので、まず、原告が本件訴えにつき法律上の利益を有するか否かについて判断する。
一般に、町名変更の告示は、その性質上特定又は不特定多数の住民に対してその権利義務を形成変更することを目的とするものではないから、右の告示によつて住民が不利益を被むることがあるとしても、通常は精神的ないし感情的等の事実上の不利益に過ぎず、したがつてこの場合には住民は告示の取消を訴求する法律上の利益を有しないことはいうまでもない。
しかし、町名は単に町区画を表示する名称たるに止まらず、当該地域の歴史、伝統、文化その他もろもろの特性を示すものとして社会的に評価され、住民の諸般の生活と密接な関連を有するものであるから、町名変更によつて住民の名誉、財産その他種々の権利関係が影響を受け、場合によつてはこれらの権利ないし法律上の利益が侵害されるということも考えられないことではないのであつて、それ故、住居表示法も特に規定(三条四項、五条の二)を設けて弊害の防止について配していることが窺えるのである。そして、右のように町名変更によつて自己の具体的な権利ないし法律上の利益が直接侵害されるような特別の事由が認められるときに限つて、告示の取消を訴求する法律上の利益を肯認すべきである。
本件において、原告が本件訴えの利益を根拠づける理由として主張するところは、本件地区の町名はこれを駒場又は南駒場と変更すべきであるのに大橋二丁目と変更することによつて、その地価を低下させ、売却を困難ならしめるというにあるけれども、本件記録上右主張事実を認めるに足りる証拠がない。
しかも、原告本人尋問の結果(第一、二回)および弁論の全趣旨に徴すると、原告らが本訴においていわんとするところは、前記財産上の損失もさることながら、むしろ主として、本件町名変更によつて被むる精神的ないし感情的不利益にあるものと解せられるのであるが、右のような事由が本件告示の取消を訴求するについての法律上の利益にあたらないものであることは前示のとおりである。そして、他に本件訴えの利益を肯認すべき事由はなんら存在しない。
(高津環 内藤正久 佐藤繁)